穴場

午前4時、iPhoneの『友達を探す』アプリで沢好坊さんの居場所を確かめる。まだ自宅にいるようだ、到着までに30分くらいの猶予はある、いつものバッグに道具を放り込んでいく。彼は今日、やる気になってるっぽいのでイブニング用のヘッドライトもいるな。そうそう、熊鈴も忘れないようにしなくては。
今回は彼と彼の同僚K氏との釣行だ。どこの渓に向かうか悩んだが、結果いつもの水系に車を進めることになったので、私がピックアップしてもらうことになった。『友達を探す』が彼が近づいていることを示すとメッセージが入ってきた。『もうすぐ、着きます』。
空を見上げれば曇り空ではあるものの、彼と私の釣行に付きものの荒天は避けられそうな気配、それよりここ数日の好天による渓の渇水が気になる。まあ考えてもどうこうなる訳でもないので杞憂は置き去りにすることにして挨拶もそこそこにK氏の運転する車に乗り込み心は清冽な流れに飛ぶ。

渓に着き、ざっと流れを下見して入渓点を決める。今回は下流部からだ。先に入渓した沢好坊さんの釣りを土手から見ているといきなり飛沫があがる。しかし彼はロッドを立てることなく苦笑い。ミスったか・・・とギャラリーと化したK氏と私がはやしたてると、どうやら飛沫の主はチビッコらしい。私も少し離れた場所から入渓してみるとここしばらく経験したことないほどの高反応ながら、フッキングすらままならぬサイズのチビッコたちがフライと戯れにくる。それでも反射的にロッドを立ててしまうと10cmもしくはそれに満たないサイズの、パーマークのコントラストがはっきりしたアマゴが飛んでくる。文字通りのフライフィッシュなのだ。ランディングネット不要の小魚たちをカメラのフレームに収めることは、当然しない。それが後々私を後悔させるとともに焦らせることになるのだが。

K氏はこの小魚達を釣り上げるのが滅法上手い。もちろん写真を撮る気にさせる魚を釣るのも上手いが、小魚に関していえば私が5回に一度フッキングに成功するところを3回は成功させている。ただ不幸なことに小魚達がK氏の手許にたぐり寄せられる頃には昇天してしまうことが続いたために、後ろで見ていた沢好坊さんと私に『アマゴ殺しのK』という汚名を着せられた。その後『アマゴ殺し』は語感が悪いということで"Amago Killer"と言い改められたが、温厚なK氏には不本意な汚名だったかもしれない。
昇天したと思われたアマゴたちが実は脳震盪で、水中で腹を見せて漂っている自分に『ハッ』と気がつき流れの底に一目散であったことを願って止まない。
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Amago Killer "K"



午前中の釣りは小魚たちとの戯れで終始し、それはそれなりに楽しいものではあったが、目的はヒレピンの渓魚だ。蕎麦の昼食後戦略を練り、ランディングネットの網目から水も漏らさぬような万全のヒレピン対策を打ち立てる。戦略とはこうだ。『さっきの渓の上流部に入る』。上流部にいけば魚影も濃くなるだろう、そして渓魚のサイズも大きくなるに違いない・・・という人間心理の深淵を突いた心理学的考察に基づいた高邁な戦略。人は安易というかも知れないが、高邁なのだ。

そして上流部のリサーチが始まる。入渓点および脱渓点をiPhoneの『i地形図ナビ』という、現在地を標準マップと国土地理院1/25000地図に切り替えて見られるアプリを駆使して調査する。慎重な調査の上、入渓し釣りを始める。下流の橋から始めると『i地形図ナビ』では表示されていない堰堤が出現した。なんとか巻いてやり過ごすが、再び大きな堰堤の出現に辟易する。
その間に魚がサイズアップしてきていれば意気も上がろうというものだが、サイズどころか活性が下がってきているので尚更だ。高巻くにはかなりの遠回りを強いられるなと考えていると、三人の中でいちばん身軽な沢好坊さんが上から水の流れている堰堤の壁をボルダリングし始める。
こちらは未練がましく堰堤下の溜まりにフライを浮かべつつ横目で『マジかよぉ・・・』とにらむが"Amago Killer"のK氏も堰堤の垂直でとりつく窪みすらない壁にへばりつく。手助けしない訳にいかないので、足場を作り下から押し上げてK氏も堰堤上の人となる。これは登らない訳にはいかない状況に陥った。
体重も重量級で寄る年波にめっきり筋力が弱り、身体の柔軟性皆無で釣りの前には足がつるのを防止する芍薬甘草湯を飲まなければならん年寄りを堰堤の下に残すというのはいかがなモノか。 
何度かチャレンジしてみるが足をグリップさせる出っ張りが見つからない。あぁ、ここでチロリンチロリンと鈴を鳴らしながら救助を待たなければならんのか・・・と思うと三人の孫の顔が脳裏に浮かんでは消える(笑)。『アマゴ殺し』ならぬ"Amago Killer"のK氏が今度はジジイをも見殺しにするのかと根拠のない逆恨みをする自分がナサケナイ。
何とか新たな場所に足をホールドさせるわずかな出っ張りを見つけ出し、堰堤上の二人に引っ張り上げて貰い堰堤に登る。"Amago Killer"はジジイを助ける良い人であった。

脱渓点の橋が見えぬままさらに上流に釣りすすむとまたもや堰堤。その直前にライントラブルでリーダーから交換したかった私は二人の堰堤の釣りを横目でみながらリーダー、ティペットを交換していると、歓声があがる。K氏がアマゴを殺すことなく釣り上げたようだ。それもいいサイズの綺麗なアマゴだ。下から見たところ、その堰堤にはほとんど水がないように見えたので「どこで釣ったの?」と聞いてみると「穴」との返事。
は?穴?意味がわからずも手元の交換作業を続けると今度は沢好坊さんが歓声を上げる。どうやら「穴」から魚が飛び出してきたらしいがフッキングできなかったようだ。直後にまた歓声を上げる沢好坊さん。また失敗したらしい。おいおい、オレもやりたいよ、その穴。
準備が整ったので、穴に挑戦してみる。近づいてみると確かに「穴」だ。水勢で削り取られた堰堤の底面に空洞でもあったのだろう、形容すればキツツキの巣が堰堤の底にある感じで、それが絶好の魚の居着き場になっているようだ。
沢好坊さんが責め立てた後なので無理かなと思いつつ何度かチャレンジすると、穴の向こう側から流れてきたフライが穴のこちら側に抜ける直前に消えた。瞬間的にロッドを立てると手応えと共に魚影を確認。「穴」からさえ出してしまえばそこは堰堤、バラしてもネットで掬えば何とかなる・・・と瞬間的に計算し表面に水が流れる堰堤のコンクリート上をズルズルと。
ネットに収まった姿を確認すればとても美しいイワナだ。写真を撮っていると心優しい"Amago Killer"がメジャーを持って採寸してくれた。25cm。
その時の沢好坊さんは、私が釣り上げたもんだから、まだ行けると踏んだのかしきりにロッドを振っていて、綺麗なイワナを見に来ようともしない(笑)。
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穴から飛び出してくれた美形イワナ



どうやら穴の隣にもちいさな穴があったようで沢好坊さんはその小穴からイワナを引きずり出したようで堰堤の上でパチリと撮影中。私はちゃんと見に行き「オレのより小さいな〜、ふふふ」と確認。
この穴場でクライマックスを迎えることができたので再び堰堤を登り事前に確認してあった脱渓点へ向かいロッドオフとした。
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Commented by naru-kato at 2013-07-23 18:20
ひれの大きなイワナですね、最近開田が調子悪いのでそろそろ他の渓も開拓してみよーかなー なんて思ってる今日この頃です。
Commented by standy at 2013-07-24 06:18 x
naruさん、どうもです。そういう意味で木曽は有り難いですね。とても広い範囲のフィールドから釣り場を選べますから。増水しにくい場所だったり濁りが入りにくい場所だったりという引き出しをたくさん持つことはとても大切ですからね。
by s_1046 | 2013-07-21 18:51 | 釣行レポート | Comments(2)

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by s_1046
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